2009年6月
変なおじさん
鈴木三蛙神父
変なおじさん、変なおじさん、阿呆!
飲むように薬を持っていったがどうしても飲もうとしないYさんが、様子を見ていた小生に悪態をつく。
夜九時過ぎ、再度薬と水をもってゆくとコップの水を受け取るなりバシャッとその水を投げかけ小生に掴みかかってきた。
翌日は、いつもはよく言うことを聞くM世話人さんが薬と水を持っていったが、やはり同じような事になった。
この数日どうも様子がおかしい。
ちょうど一年前がそうだった。
薬を飲むのを拒否し、逃げ回る。
あげくは昼夜逆転、夜中に起き出して外に出ようとする。
スタッフを避け姿を見ると駆け足で逃げ、よその庭に入りこんでうずくまっているなど異常な行動が目立った。
どうしても薬を飲もうとしないので病院に同行、主治医の方から説得してもらい、一ヶ月ほどの入院となった。
戻ってきた時にはまた深々と頭を下げ挨拶をするYさんに戻っていた。
統合失調症は薬をしばらく飲まないとたちどころに病状が悪化する。
いずれはよい薬が開発されるかも知れないが、今のところ毎日の薬は欠かせない。
翌日、世話人さんが部屋の片づけをしていると、ベットの下に一週間分ほどの薬が放置されているのが見つかった。
体の調子が良い時は体を九十度折って大きな声で挨拶、何か頼まれたりすると、「判った」そう言って積極的に行動する方だ。
本人は「もう年だから養老院に行きたい」と言うが、そんな時には「まだ早い、順番なら私の方が先だ」、そう言っている。
実際まだ六十歳ほどである。これまでは、薬は手渡しで飲むのは本人に任せていたが、次の日からは同じメンバーのK君に頼んで、目の前で飲むのを確認してもらうことにした。
どうゆうわけかK君の言うことにだけは逆らわない。
そして三週間、また大きな声で返事をし、深々と頭を下げて挨拶するようになってきた。
先日は生活支援定額給付金一万二千円のうち千円を今度の旅行の時に小遣いとしてくれないかと言ってきた。
他のメンバーは定額給付金に全く無関心であるが、Yさんはその点、「こんど昼食は冷やし中華にしてくれないか」などと自分の希望をよく伝えてくる。
悪態を付くのも病気のなせる業である。
病状さえ好転すればまた可愛らしいおじさんになる。
そして、世話人さん達もまた何とか彼の喜ぶ顔を見たいと考え始めるのである。
「一日に七回あなたに対して罪を犯しても、七回、『悔い改めます』と言ってあなたの所に来るなら、赦してやりなさい」(ルカ17・4)
教会報 2009年6月号 巻頭言