2022年12月

甦った青年
御前(みさき)ザビエル

フランスのある田舎に一人の医師がいました。
彼は当時、厳しい労働に苦労していた農夫たちの病気やけがを治療するために、いつでも、どこへでも、どんな天気であっても飛んで行く、献身的な医師でした。
ある夜中、かなり辺ぴな村の農家から電話が入りました。
家で預かって働いている17歳の青年が変なものを飲んだらしく、ひどく苦しんでいるので早く来て診て欲しいというのです。
青年は、中学校を退学して2、3回家出した揚げ句、ある農家に拾われました。
拾ってはくれましたが、与えられた仕事は、汚い、きつい、危険そのもの。
住まいは家畜小屋と違いのない、風雨がすきまから入るみすぼらしい小屋でした。
寝床は、板で作った箱にわらを敷き込んだもの。
その家族から、愛情を受けるどころか、杖で叩かれ、奴隷のようにこき使われていました。
青年はだんだん孤独になり、生きる希望もなく深い絶望のふちに沈み、そして、この苦しみから解放されたいと、農薬を飲んでしまったのでした。
連絡を受けたその医師は、雨水が溜まったでこぼこ道に、傷だらけの古い車を走らせました。
闇の中、案内された小屋には1本のロウソクしかなく、青年の姿がよく見えません。
しかし、腹を押さえて、気絶するほどにもがき苦しむうめき声は聞こえました。
青年は、「先生よ、死なせてくれ。死ねるように助けてくれ」と言うばかり。
医師は落ち着いて、青年の苦しみに耳を傾けました。
わらの寝床の端に青年を座らせ、強く、長く、抱きしめ、涙にぬれている青年の苦しみに引きつった顔を優しく撫でました。
そのとき、奇跡が起こりました。
青年は、生まれて初めて優しくされてびっくりしました。
初めて人の温もりを味わい、心がすっかり変わりました。

「先生、おれは助かりますか」
「助かるとも」

医師は安心させて、青年の胃を洗浄し始めました。
青年は、初めて出会った人間味豊かな優しさと愛によって生き返り、助かりました。
この医師のしたことは、神がお生まれになった主イエスを通してわたしたちにしてくださったことと同じです。
人間は、青年のようにもだえています。
孤独、恐れ、不安の闇の中を歩み、まことの生き甲斐をなかなか見出せません。
悩んでいる人の苦しみをつぶさに見ておられる神は、愛を示してくださいました。
クリスマスとは、神が悩んでいるわたしたちを抱きしめてくださる神秘、迷っているわたしたちに、「わが子よ、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだ」と喜ぶ父なる神の愛の現れです。
イエスの誕生を通して、「すべての人々に救いをもたらす神の恵みが現れた」ことを心から喜びたいのです。
クリスマスの夜半ミサに告げ知らせられる福音に、天使のことばが響きます。

「恐れるな。わたしは民全体に与えられる大きな喜びを告げる」

主イエス・キリストの誕生に示される神のいつくしみをたたえることができますように。
また、神に倣って、わたしたちも苦しんでいる人々を抱きしめる温かい心をもって、クリスマスの祝いを生活の中で生きることができますように。

教会報 2022年12月号 巻頭言

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