2023年12月

無原罪の聖マリア
中嶋 義晃 神父

無原罪の聖マリアの祭日は、トリエント公会議以後の16世紀後半になって初めて広く取り上げられるようになりました。
マリアはしばしば、サタンである蛇を踏みつけ、雅歌を典拠とした谷間のゆり、茨の中のゆりの花(2・1-2参照)、ダビデの塔(4・4)、閉じられた園(4・12参照)などの象徴的モチーフに取り囲まれます。
これは中世期、雅歌の花嫁がマリアと同一視されていたことによる「曇りのない鏡」(知恵7・26参照)、閉じられた門(エゼキエル44・1-2参照)などの純潔を表す一般的象徴を伴うこともあります。

聖母マリアが、その母親アンナの胎内に宿った時から原罪の汚れから守られていたことを記念する祭日は、東方教会では8世紀末頃から、マリアの誕生(9月8日)の9カ月前に当たる12月9日にマリアの母アンナの受胎を祝っていました。
この伝統は9世紀にイタリア南部に、11世紀以降はイングランドやフランスにも伝わり、12月8日の祝いとなり、やがて西方教会では、マリアが原罪の汚れなく宿ったことを記念して祝われるようになりました。

ピオ9世は、教理宣言に踏み切るためにすべてのカトリック司教に意見を求め、603人中546人の賛成を得て、1854年12月8日、大勅書『イネファビリス・デウス』 を発布し、「人類の救い主キリストの功績を考慮して、処女マリアは全能の神の特別な恩恵と特典によって、その受胎の最初の瞬間において、原罪のすべての汚れから、前もって保護されていた」という教理を「神から啓示されたもの」として官言しました。

その4年後の1858年3月25日に、マリアがフランスのルルドで少女ベルナデッタに現れ、「わたしは原罪がなくて宿った者である」と答えられました。
さらに第二バチカン公会議の第4会期(1965年)の『教会憲章』の56項で、「アダムの娘であるマリアは神のことばに同意してイエスの母となり、いかなる罪からも麻痺させられることなく、真心から神の救いのみ心を受託し、……子とともに、全能の神の恵みによって、あがないの神秘に奉仕したのである」と、聖母の無原罪の教理を受け継いでいます。

現代のカトリック神学者は、原罪に関する教理についてさまざまな新しい解釈を試みており、それは当然、無原罪の意味の新しい捉え方を可能にします。
マリアが自分のすべての功績に先立って神の無償の恩恵を受けたことは、人間に救いをもたらすのがいつも、いつくしみ深い神であることをはっきり表すしるしであります。
マリアの無原罪の御宿りの教理がもつ積極的な意味は、マリアとキリストの「緊密で解くことのできない絆」を考えながら、「受胎の瞬間から全く特別な聖性の輝きをもって飾られて」いたマリアを、教会の象型・もっとも輝かしい範型として捉え、聖霊の働きの豊かさを明らかにすることを通して、新たに照らし出されるのです。

教会報 2023年12月号 巻頭言

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